サン・ジョヴァンニ洗礼堂の起源は4世紀から5世紀までさかのぼり、ローマ人たちが軍神マルスに捧げた神殿であったと思われます。
11世紀になると、そこにはフィレンツェの守護聖人である洗礼者聖ヨハネ(San Giovanni Battista)に捧げるべく、八角形プランの大聖堂(司教座聖堂)に改築され、同時に現在のサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の前身にあたるサンタ・レパラータ聖堂(発掘された遺跡を大聖堂の地下に見学できます)の建設が開始されました。
1128年にサンタ・レパラータ教会が完成すると、サン・ジョヴァンニ大聖堂は「大聖堂」の座を新築のサンタ・レパラータに譲り、受洗の場としての「洗礼堂」となります。
ビザンティン様式の影響を受けたロマネスク建築の洗礼堂は、外観は連続する半円アーチと、緑色と白色の大理石による幾何学デザインでシンプルにまとめられていますが、堂内に入ると、天井はすべて黄金に輝くガラス・モザイク画で覆われた別世界です。このモザイク画制作はヴェネツィアからの応援もあったとはいえ、フィレンツェの画家コッポ・ディ・マルコヴァルドやチマブーエらも参加したフィレンツェ美術の原点といえる13世紀から14世紀にかけての一大事業でした。
政治的抗争に巻き込まれ、フィレンツェを1302年に追放されて北イタリアで流浪の日々を送っていた詩人ダンテ・アリギエーリ(1265〜13311)にとっても、サン・ジョヴァンニ洗礼堂は文学的イメージの源泉であったようです。ふろさとの洗礼堂を「麗しき私のサン・ジョヴァンニ」と呼び、「洗礼の日、深い聖盤の中にはまってしまって溺れかけた子供を、私自身がそれを壊して救った」(『神曲』地獄篇 第十九歌)ことを懐かしく思い出しながら、ダンテはラヴェンナで 『神曲』を執筆しました。
<天井モザイク画の主題>
1. 最後の審判
2. 天使の位階(イエスの両隣に、熾天使(赤)、智天使(青)。イエスから反時計回りに、主天使、能天使、大天使、天使、権天使、力天使、座天使。階級の高い天使が、よりイエスの近くに描かれています。)
3. 創世記
4. 聖ヨセフの物語
5. 聖母マリアとキリストの物語
6. 洗礼者ヨハネの物語