1424年に北側扉が完成すると、ギベルティは引き続き残るもう一枚の扉制作を同じ毛織物業者組合(Arte di Calimala)から委嘱されました。ギベルティは、息子のトンマーゾやヴィットーリオの手を借りながら、その制作に25年以上をかけ、1452年に完成させました。
すべてにわたってアンドレア・ピサーノの先行作品に従わねばならなかった前作の時とは違い、形式も構成もギベルティの自由に任されていたことが、現存する請負契約書から知ることができます。ギベルティ自身の実績からくる信用とともに、画家や彫刻家の「芸術家」としての社会的ステータスが急激に向上したためではないかと推測されています。
こうして、第三の扉制作にあたって、ギベルティはゴシック風の四つ葉型の枠を捨てて四角形とし、各パネルの大きさも四倍に拡大しました。(当初は、他の2つの扉と同様に28枚のパネルで構成される計画であったことが、扉の裏側のデザインからわかります。)
「旧約聖書」の物語を主題とした合計10枚のパネルが、左上から始まって右下で終わるよう、アダムとエヴァの堕落、楽園追放後の人類の下降していく道程を追っています。10枚のパネルで「旧約聖書」のすべての物語を表現することは難しいため、「異時同図法」を使用して、異なる時間をひとつのパネルの中に描きこんでいます。例えば「アダムとエヴァ」のパネルには、「アダムの創造」「エヴァの創造」「原罪」「楽園追放」の場面が描かれています。
1. アダムとエヴァ
2. カインとアベル
3. ノア
4. アブラハム
5. イサク、エサウとヤコブ
6. ヨゼフ
7. モーセ
8. ヨシュア
9. ダヴィデ
10. ソロモンとシバの女王
透視図法によって処理された空間にリアルな絵画的世界が再現されているほか、周縁は豊かな工芸的装飾で包まれ、さらに燦然と輝く鍛金仕上げが全体に施されています。
完成当時も絶賛を博したこの第三扉は、アンドレア・ピサーノの第一扉を南側へ移して、大聖堂の正面と向かい合った東側に設置されました。
なお、それからしばらくしてからのことですが、この東側扉をミケランジェロが《天国の扉(門)》と絶賛してから、今もそのように呼ばれています。近代彫刻の傑作であるロダンの《地獄の門》が、これを意識して制作されたものであることは言うまでもありません。
現在、洗礼堂の《天国の扉》はコピーに代えられ、オリジナルは大聖堂付属博物館に展示されています。
作品情報:
Porta del Paradiso, Lorenzo Ghiberti, 1425-1452, Bronzo dorato, 599×462×245 cm, Battistero di San Giovanni, Firenze