集中式プランの八角堂であるサン・ジョヴァンニ洗礼堂を完成させるためには、東側、北側、南側の三方に青銅の扉を設置しなければなりませんでした。
洗礼堂の建設を推進していた毛織物業者組合(カリマーラ組合 Arte di Calimala)は、フィレンツェに先行して最先端の文化を開花させていた港湾都市のピサにならって、ボナンノ・ピサーノが制作したピサ大聖堂の右翼廊の扉「サン・ラニエリの扉」と同様に、観音開きの青銅扉を計28枚のパネルで構成することにしました。
こうして鋳造技術に秀でた彫刻家として白羽の矢が立ったのが、ジョヴァンニ・ピサーノの弟子であったアンドレア・ピサーノでした。
現在、南側に設置されているアンドレア・ピサーノの青銅扉は、1330年から1336年にかけて制作され、1338年には大聖堂正面と向かい合った東側の扉として設置されたものです。
扉を構成する28枚のパネルは、上5段20枚には「洗礼者聖ヨハネの生涯」の物語の場面が、下2段8枚にはキリスト教における象徴的な「美徳」(対神徳、枢要徳、謙虚)の擬人像が、ゴシック様式特有の四つ葉型の枠の中に浮彫りされています。作者と発注者は、《キリストの洗礼》を重要な場面と考え、その場面をよく見える位置に配置しました。
ブロンズ鋳造は、リオナルド・ダヴァンツォ率いるヴェネツィアの鋳造師チームによっておこなわれました。
この作品の完成は、フィレンツェの経済的文化的な力と、それまで互いに覇権を争ってきたトスカーナ諸都市に対するその優位性をはっきりと示すものでした。
現在オリジナルは大聖堂付属博物館に所蔵され、聖堂にはコピーが設置されています。
「洗礼者ヨハネの生涯」(1〜20)
8. イエス到来を告げる洗礼者ヨハネ
9. 洗礼を受ける洗礼者ヨハネ
10. キリストの洗礼
16. 洗礼者ヨハネの斬首
「美徳」(21〜28)
21. 希望
24. 謙遜
作品情報:
Porta sud del Battistero di Firenze, Andrea Pisano, Leonardo d'Avanzo e altri, 1330-1336, Bronzo con dorature, 577×428 cm, Battistero di San Giovanni, Firenze