1401年、当時のフィレンツェでは最有力の同業者組合であった毛織物業者組合(カリマーラ組合 Arte di Calimala)が主催して、北側扉(第二扉)の制作者を決定するコンクールを開催しました。美術史上初めてともいえるこのコンクールには、名だたる新進彫刻家たちが参加し、その腕を競いました。芸術への高い関心と青年芸術家たちの技量を正当に評価しようとする自由で民主的な空気が、当時のフィレンツェには流れており、このコンクールによって、ルネサンスの幕が開かれることになります。
最終審査に残ったフィリッポ・ブルネッレスキとロレンツォ・ギベルティの二人の作品に対して、委員会は優劣を決めがたく共同制作の申し出をしましたが、ブルネッレスキはそれを嫌い、自ら進んで優勝をギベルティに譲ったと伝えられています。
優勝したギベルティは1403年には青銅扉の制作に着手し、20年以上の歳月をかけて1424年に完成しました。門扉の形式と28枚のパネルからなる構成はアンドレア・ピサーノの南側扉(第一扉)とまったく同じですが、主題はすべて新約聖書の中からとられています。上5段20パネルには「キリスト伝」の物語の場面が、下2段の8枚のパネルに「四福音書記者」と「四教会博士」があらわされています。
キリストの生涯の諸場面が下(3列目)から始まり、上へと進むような配列にした理由は、ギベルティがパネルの順序を物語の道徳的性格を反映するために利用したためではないかと思われます。この上昇する歩みは、キリストの受肉、十字架磔刑、死への勝利によって可能となったわれられの贖罪と一致しています。
ブロンズの枠縁に継ぎ目なしに鋳造された葡萄の葉などの草花装飾や、枠緑の接合部の丸窓から顔を出す小さな人物像の個性的な描写は特に興味深く、人物像のなかには東方系や北欧系のエキゾチックな顔も見られ、キリストによる救済が全人類におよぶものであったことを示しています。
現在オリジナルは大聖堂付属博物館に所蔵され、聖堂にはコピーが設置されています。
「キリスト伝」(1〜20)
1. 受胎告知
2. キリスト降誕
3. 東方三博士の礼拝
5. キリストの洗礼
「四福音書記者」(21〜24)
21. 福音書記者聖ヨハネ
22. 聖マタイ
23. 聖ルカ
24. 聖マルコ
「四教会博士」(25〜28)
25. 聖アンブロージョ
26. 聖ヒエロニムス
27. 聖グレゴリウス1世
28. 聖アウグスティヌス
受胎告知の右上(★)にあるのが、ギベルティの自画像です。
作品情報:
Porta nord del Battistero di Firenze, Lorenzo Ghiberti, 1403-1424, Bronzo dorato, 506×387 cm, Battistero di San Giovanni, Firenze