11/03/2020

《バッコス》ミケランジェロ・メリージ(カラヴァッジョ) 《Bacco》Michelangelo Merisi (Caravaggio)


《バッコス》はデル・モンテ枢機卿がトスカーナ大公フェルディナンド・デ・メディチに寄贈した作品で、その制作年代はカラヴァッジョが枢機卿の保護下にあった1598年頃とされます。


1608年にフェルディナンドの息子、コジモ2世の結婚式を祝う際に、デル・モンテ枢機卿からフェルディナンド・デ・メディチに寄贈されましたが、ウッフィーツィ美術館の保管室で発見された1913年まで、その存在は明らかではなく、目録に記録されたことも額に入ったことすらもなかったとされます。


ここに表されている若者(あるいは少年)は、暗褐色の頭髪と見分けがたい色の実と葉を付けた、ブドウの枝の冠をかぶっています。手前にワインや果物籠が置かれていることから、古代の豊穣神・酒神、バッコスであることがわかりますが、こうした特徴的なモティーフが描かれていなければ、それは画家の身近にいる若者にしか見えません。


この作品は、《病めるバッコス》(6枚目、ローマ、ボルゲーゼ美術館所蔵)と同じように、バッコス像の伝統において革新的でした。ここに描かれているバッコスは、これまでのように古典的な文化のフィルターを通した理想化がなされておらず、とくに洗練されてもいない風貌の、古代風の衣裳をまとった若者のような姿で表されているからです。


若者は、バッカスの衣装を身に着けているというよりも、バッカスに扮していると言った方がいいでしょう。肩衣はシーツを巻きつけたものにすぎず、しま柄の古びたクッションの隅がのぞく、「古代風の」寝椅子に横たわっています。この若者は、画家の友人、マリオ・ミンニーティです。


(3枚目)

バッコスの食卓には果物が置かれています。ここには単に季節の果物(リンゴ、イチジク、ブドウ)があるだけではありません。腐敗したナシやしなびた葉が、時のもたらす腐敗を、そして「メメント・モリ(Memento mori、死を思え)」の教えを想起させ、そのことはさらに右側の黒い布の端により強調されています。


(4枚目)

果物の中で目立つザクロは、キリストの受難と復活の象徴です。同様に観者に差し出されるなみなみと注がれた杯も、聖体の奥義を暗示しているように思われます。この解釈の根底には、幾世紀にもわたる、バッコスをキリストの予型と見なす文学的伝統があります。


ワインが入った杯を持った左手は鑑者に向かって伸び、鑑者を誘うかのように見えます。このワインを差し出す左手の様子から、カラヴァッジョは絵を描く際に、必要にかられ、鏡を使っていたのではないかと考える学者もいます。つまり、私たちにとって左手のように見えるこの若者の手は、実際には彼の右手だったのではないか、と推測されています。


(5枚目)

カラフには驚嘆すべき技巧によって顔が映っているところが描かれています。これを画家本人の自画像と考える学者もいます。


ローマ時代の初期、カラヴァッジョの写実的描写のたぐい稀な能力は、貴族や高位聖職者たちの知的で洗練された趣味に合致しました。彼らは道徳的寓意の込められた世裕的主題のカンヴァス画を、とりわけ好みました。


作品情報:

Bacco, Michelangelo Merisi (detto 'il Caravaggio'), 1598 circa, Olio su tela, 95×85 cm, Galleria degli Uffizi (Sala 90), Firenze

Bacchino malato, Michelangelo Merisi (detto 'il Caravaggio'), 1593-1594, Olio su tela, 67×53 cm, Galleria Borghese, Roma