アーニョロ・ドーニが、1504年1月に行われたマッダレーナ・ストロッツィとの結婚式の際に注文したもので、ヴァザーリによれば、この作品に額縁を含めて140スクーディを支払い、金箔貼りの額縁にはストロッツィ家の紋章を示す3つの半月を彫り込ませるつもりだったといいます。
ミケランジェロの制作した板絵(テンペラ画)としては唯一のもので、すばらしい額縁もミケランジェロ自身がデザインし、ドメニコ・デル・タッソが彫り上げた当時のオリジナルです。
この大彫刻家の絵画は、彫刻を絵にしたような、としばしば評されるとおりですが、その際、画面から飛び出してきそうな三次元性、量塊性という点ではもちろん、線的な明晰さにおいても彫刻的だということです。人物の衣襞の輪郭がきびきびと刻むリズム、明暗のコントラストを効かせた滑らかで力強い肉付けは、いずれも明快です。
構成として、絵の中央に大きく描かれた聖母がもっとも目立っています。聖母は地面とのあいだに敷物を敷かず、地面に直接座っています。聖母の下に描かれている芝生は緑で、彼女の周りの草のない大地と好対照をなしています。
聖ヨセフは、おそらく家長として、聖母と比べると高い位置に描かれており、聖家族の構成としては変わった構成です。聖母は聖ヨセフの脚のあいだに座っており、まるで聖ヨセフが聖母を守っているかのよう見えます。聖母が聖ヨセフから幼児イエスを受け取ろうとしているのか、それともその逆なのかは議論が分かれるところですが、聖母が幼児イエスを見上げるまなざしは愛情と崇敬の念で満ちており、母としての力強さが、彫刻家であるミケランジェロならではの人体表現によって表現されています。
フィレンツェの守護聖人である洗礼者ヨハネが、聖母子と一緒に描かれるのはフィレンツェの芸術作品の中では一般的で、幼児聖ヨハネは、聖家族と背景の男性たちとのあいだに描かれています。
画面中央やや下には水平な帯があり、前景に描かれた聖家族と後景に描かれた男性たちや幼児聖ヨハネとを隔てています。後ろの5人の裸体像は、異教的な世界を暗示するとされますが、さらに具体的な内容となると解釈はわかれ、多くの憶測や議論のもととなってきました。
この作品は、1594年にメデイチ家のコレクションに入ります。
作品情報:
Sacra famiglia (detta 'Tondo Doni'), Michelangelo Buonarroti, 1503-1504 circa, Tempera grassa su tavola, 120×120 cm, Galleria degli Uffizi (Sala 41), Firenze