10/24/2020

《受胎告知》レオナルド・ダ・ヴィンチ 《Annunciazione》Leonardo da Vinci


この作品はフィレンツェ郊外のモンテ・オリヴェートにあるサン・バルトロメオ教会から来たものですが、しかし注文については、一切分かっていません。


この絵はさまざまな画家に帰されてきました。現在では、レオナルド説をとる学者が大多数ですが、否定する者もいます。それは、当時の工房の共同作業が特別なことでなく、この作品中にレオナルド的でない要素がいくつか見出されるからです。しかしながら、この作品のレオナルド的要素はそれらをはるかに上回ります。遠近法上の不整合はあるものの、聖母の衣のひだや天使の腕など、明らかにレオナルドに帰せられる準備デッサンが残っていますし、背後の風景などいくつかの部分にも非凡な才能が見られます。


大天使ガプリエルが聖母に告知する場面は戸外で、それもマリアの処女性を暗示する、塀で囲まれた「閉ざされた庭」で展開されます。この庭の植物はレオナルド特有の科学的な精密さで描かれています。そして、たっぷりとしたマントで覆われた椅子に聖母がゆったりと腰をおろし、その背後にはミケロッツォの建築を思わせるルネサンス風の建物があります。


(3枚目)

大天使ガブリエルはマリアの純潔の象徴であるユリ手にして、草の上でひざまずき、そして聖母を祝福しています。天使の翼の妙になまなましい描写は注目に値します。これは実際の鳥をじっくりと写生した訓練の成果以外の何ものでもなく、後に、自然界に存在しないとの理由で輪郭線を排除するなど、徹底したリアリストとなるレオナルドは、すでに、飛行する天使であれば、伝統的な極彩色の翼ではなく、鳥の翼を持っているに違いないという信念を示しています。


(4枚目)

一方、大理石でできた明るい壇の上にいる聖母は、呼びかけに応え、左手を驚きのポーズで引っ込めています。だが平然とした顔には驚きは見られません。彼女は、一種の古代の石棺に乗せられた高価な書見台を前にしていますが、この石棺は異教の祭壇にならってライオンの脚や花綱、渦巻き、アカンサス、そして貝殻などで装飾されており、メディチ家周辺で流行した古代趣味を反映したものです。そしてその仕上げ方は、フィレンツェのサン・ロレンツォ聖堂旧聖具室にあるヴェロッキオの傑作、メディチ家のジョヴァンニとピエロの墓を思い出させます(5枚目)。その前で、聖母は右手で貴重な書物を走り読みしているところです。


(6枚目)

大気中の水蒸気による乱反射によって生じる空気遠近法の効果は、後にレオナルド自身が見出すものですが、画面中央奥の青みがかった風景表現によって、すでにこの時点で、彼がそのことを感覚的に把握していたことがよくわかります。


通例と違い、ここには伝統的なハトの姿でも、あるいは光線としてでも、聖霊は描かれていません。