サンドロ・ボッティチェッリのもっとも有名な作品のひとつは、キリスト教の伝説ではなく、古代神話を描いた、この《ヴィーナスの誕生》です。この作品は、《春》同様に、ロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコ・デ・メディチが所有していたカステッロの別荘を飾るために描かれた、と考えられています。
この作品は、ギリシア神話におけるアフロディテ誕生の物語を表現したものです。実際にはタイトルが示している誕生ではなく、ホメロスの「アフロディテ讃歌」に従って、海から生まれたアフロディテが、風に運ばれてキプロス島に辿り着く場面が描かれています。アフロディテは、ギリシア神話における愛と美の女神で、ローマ神話のウェヌス(英語名がヴィーナス)にあたります。
(3枚目)
ヴィーナスは画面中央で、彼女の特別な乗物である貝殻に乗って立っています。そして古代以来の「恥じらいのヴィーナス」(6枚目:メディチのヴィーナス)の典型的なポーズで、一方の手を胸に当て、もう一方の手を恥丘に伸ばし、豊かなプロンドの髪でそれを隠しています。そして、視線は下に向けられています。
(4枚目)
これに対して左側では、アウラ(微風)とゼフュロス(西風)が抱き合って、彼女を岸の方に押しやっています。
(5枚目)
一方、岸ではホーライ「時」の一人が春の花で飾られたマントを彼女の肩にかけようとしています。「時」の白い衣装にはヤグルマソウの組み合わせ模様が見られます。そして胸にはバラ色のバラが巻かれ、首のまわりにはミルトの輪飾りがあります。このミルトは低木の常緑樹で、ヴィーナスの木とされるものです。そしてその足元には、青いアネモネが咲いています。おそらくこの女性は春の「時」なのでしょう。
空からはバラの花が降っていますが、神話ではこのバラは女神といっしょに登場するといいます。一方右側には、花をつけて金色に輝くオレンジの林が見えます。そして入り江と岬が場所をはっきりと示しています。
他の多くのボッティチェッリ作品と同様に、この絵も複数の解釈を可能にしています。ある批評家たちによれば、この絵は当時の詩でよく歌われた、愛と女性の美を祝福するものだといい、また別の意見では、ネオブラトニズム的な哲学的意味が込められているといいます。
作品情報:
Nascita di Venere, Sandro Botticelli, 1483-1485, Tempera su tela, 172.5×278.9 cm, Galleria degli Uffizi (Sala 10-14), Firenze
Venere de' Medici, Cleomene di Apollodoro, Fine del I secolo a.C., Marmo, 153 cm, Galleria degli Uffizi (Sala 18), Firenze