サンタポッローニア修道院の食堂に、フィレンツェ・ルネサンスを代表する”CENACOLO”(最後の晩餐)の1つ、アンドレア・デル・カスターニョの《最後の晩餐》があります。歴史上、多くの画家によって描かれた《最後の晩餐》ですが、これはその初期の作品で、裏切り者であるユダのみが別の椅子に座り、弟子とキリストたちが横並びに並んで座っている伝統的な構図を確立しました。
食堂に立ったつもりで、壁画全体を眺めてみましょう。格子模様の床や天井が室内の遠近空間をいっそう強調しているのは当然ですが、屋根瓦まで丁寧に描かれているのには驚きます。
屋根が必要だったのは、アンドレアが壁面を上下2段に分割するのではなく、すべてを1画面として構成したかったからです。つまり、《最後の晩餐》の上部に描かれた「復活」「磔刑」「埋葬」の3場面は、背景として連続した空間にあるのです。部分的には厳格な透視図法を用いながらも、全体としては、比例スケールを無視した前ルネサンス的な「異時同図」の手法でまとめられています。
使徒たちの服の色と姿勢はバランスが取れ、遠近法や服のたるみなどにはリアリズムが巧みに取り入れられています。右手上方に開かれた窓から差し込んでくる光を想定した、極端なまでの明暗のコントラストが、画面全体に鮮烈な印象を与えて、ドラマの中心は、イエスとユダの背後にはめ込まれた、マーブル模様が際立った石に集約されているかのようです。背景となる大理石の壁は、古代ローマ美術の様式が意識されており、柱とグリフォンの彫像は古代ギリシャとローマの影響が見て取れます。
作品情報:
Ultima cena, Andrea del Castagno, 1445-1450 circa, Affresco, 453×975 cm, Museo del Cenacolo di Sant'Apollonia, Firenze