フィレンツェにはたくさんの郷土料理(トスカーナ料理)がありますが、その中で最も人気なのが「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」です。
ビステッカに使われる牛肉は、キアニーナ牛というトスカーナで飼育されている品種で、その名前はキアーナ渓谷(Val di Chiana)に由来します。その歴史はとても古く、2000年以上前にさかのぼります。
ビステッカに使うのは生後12か月以内の若いキアニーナ牛の肋骨部分で、断面にT字に骨が入ることから「Tボーンステーキ」とも呼ばれます。T字形の骨の両側にヒレとサーロインがついています。日本人にとってステーキと言えば新鮮で脂の乗った牛肉ですが、このビステッカは赤身のキアニーナ牛を1か月かけて血を抜きながら美味しさを高めた「熟成肉」です。
一般的な焼き方は、塩と胡椒で外をカリッと炭火焼きするだけの「アル・サングエ(レア)」です。このシンプルな調理法が驚くほど肉のうまみを引き出します。
味付けは、塩と胡椒のみでシンプルに、もしくはバルサミコ酢とオリーブオイルをかけて食べるのがフィレンツェ流です。柔らかい赤身のお肉は旨みが強く、噛めば噛むほど美味しさが口いっぱいに広がります。そして、キャンティ・クラッシコのような良質な赤ワインとも相性抜群です。
厚さ4cm以上の豪快なビステッカのため、リストランテでは1kg以上(骨を含む重量)から注文可能です。運ばれた瞬間、大きさと厚さを見て「とても食べきれない!」と思ってしまいますが、赤身ばかりなので意外なことにペロリと食べられてしまい、しかも翌日も胃もたれしません。