この多翼祭壇画は、ベネディクト会に属するフィレンツェのバディア大修道院の主祭壇のためにジョットによって描かれました。ゴシック的な三角形の頂部をもつ5枚のパネルからなり、聖母子と両脇に4人の聖人が描かれています。
この絵はあらゆるところが金色に輝き、光輪も簡単に輪郭が金地の上に示されるだけです。しかしながらこの人物たちは、その人間性によって際立っており、非現実的な抽象はここには見られません。無駄を削ぎ落とした厳粛ともいえる正確なデッサン、自然なヴォリュームを感じさせる微妙な陰影法によって、聖人たちの深い人間味が静かに表現されています。
諸聖人たちの崇高な実在感が、本来なら、平面として強調されてしまう何も描かれていない金地の背景においてさえ、三次元の空間として広がってるようです。
中央のパネルに座る聖母はたっぷりとした体で、普通の母親のように穏やかな表情を見せています。また幼児キリストは中世美術で初めて、笑みをもらし母親に甘えた様子をしています。キリストはマリアの手を握り、襟元に掴まっているようです。この変わった仕草はラッファエッロなど、他の画家たちによって再び取り入れられることになります(3枚目)。これはおそらく、異端によって折りあるごとに疑問視されたキリストの人性を明確に示すためであったと考えられます。
聖母の右手には使徒たちの中でもっとも若く、キリストにもっとも愛された福音書家ヨハネがおり、シンボルであるペンと福音書を持っています。
聖母の左手にはカトリック教会の最初の教皇とされるペテロが、チュニカとパリウムの上に祭服である黒い十字を配した白いストラをつけています。右手に持つ鍵は天国の番人であることを示します。この2つの鍵は霊性と世俗性における教皇の二重の権威をも表しています。
左端のバーリのニコラは、司教冠、司教杖、手袋、また襟や胸に豪華な刺繍が施され赤く裏打ちされた白のダルマチカなど、司教のあらゆる持物を備えています。
右端のベネディクトゥスは聖ニコラと同様、年老いた白髪の人物として描かれています。厳格な清貧を表す黒い修道着は、禁欲と「現世」からの隠遁という中世の宗教性のもう一つの側面を示しています。この祭壇画はフィレンツェのベネディクト会の中心となる聖堂のために制作されたからこの聖人が描かれたのです。
三角形の頂部には、円形の中にキリストと4人の天使が描かれています。
作品情報:
Polittico di Badia, Giotto di Bondone, 1300 circa, Tempera su tavola, 142×337 cm, Galleria degli Uffizi (Sala 2), Firenze
Grande Madonna Cowper, Raffaello Sanzio, 1508, Olio su tavola, 68×46 cm, National Gallery of Art, Washington